第30回高崎映画祭
2016年3月26日(土)〜4月10日(日)開催!
最優秀作品賞
塚本 晋也 監督
[受賞理由]
「つい70年前に一体何が起きたのか。戦争とは何なのか。今何が起きているのか」
戦争という事実を過去の出来事としてではなく、今の痛みとして描く事に果敢に挑んだ渾身作である。社会への投げかけを、映画作家として真正面からひたむきにアプローチしている。正しく手づくりで智慧を絞り、作り上げた作家魂に賞賛の声が集まった。
最優秀監督賞
小栗 康平 監督
[受賞理由]
実在の画家藤田嗣治をフィルターに、当時の時代、国、文化を包括して物語るところに作家性の確信が見える。一人の芸術家の人生を、映画的時間の中に置き換え、リアリズムと虚構の合間を掬いとるように描き込む。独自の見解と表現力で映画芸術を研ぎすます、流麗で鮮やかな作風は誰にもまね出来るものではないだろう。
最優秀監督賞
橋口 亮輔 監督
[受賞理由]
現代社会の暗闇に埋もれ、行き場を失ってしまった人たちの悲哀を鋭い洞察力で丹念に描き出している。生きる事の理不尽さを痛切に描き込みながらも、一筋の光りを灯してみせる。観る人の人生を重ねさせる映画であり、包容力のある豊かな映画にたらしめた力量と、映画の力をどん欲に訴求したその意欲に賞賛が集まった。
最優秀主演女優賞
深津 絵里
[受賞理由]
こつ然と姿を消し、やがて死んでしまった夫の死を、ゆるやかに受け入れ消化して行く妻を演じる。消える事のない喪失感をかかえたまま時を刻んでゆく妻の虚ろな生体が、死んだ夫の出現に寄って生き生きと蘇って行く姿に目をみはる。繊細な心の動きを、抑制の利いた演技でつぶさに体現する技量と、夫との魂の触れ合いを、そのからだを通して見せきる豊かな表現力に賞賛の声が集まった。
最優秀主演女優賞
山田 真歩
[受賞理由]
病弱な夫を気遣いながらも愛人との情欲に溺れる妻を演じる。肉体の躍動感はあれど心の置き所が定まらないアンニュイな存在感が、見事に映画の中でミューズと化す。演者としての野心が、美しく昇華しているかのようだ。女のおかしみを体現したその感性が高く評価された。
最優秀主演男優賞
オダギリジョー
[受賞理由]
演じる画家・藤田嗣治の、終始一貫した浮遊感が印象深い。2つの文化を生きた芸術家の心のうちがこちらに向かってくることはない。ただそこに在るのが芸術家である事だけが観客に実感として残る。こんな表現力を持った役者が他にいるだろうか。場に身を投じ、映画を底支えする天性と、その潜在性に感嘆の声が集まった。
最優秀助演女優賞
蒼井 優
[受賞理由]
主人公の夫が生前関係を持っていた女性を演じる。ワンシーンながら物語を引き締める重要な役どころである。その一瞬にかつての2人の関係、愛、妻への嫉妬と反転する優越感を織り込ませる生々しさは脅威的でもあった。空気感から一変させてしまう場作り、役作りに圧倒された。
最優秀助演男優賞
黒田 大輔
[受賞理由]
理不尽な出来事にもがき苦しむ主人公を、そばで見守る先輩社員は、辛い過去を乗り越え自らの足で立ち上がった人物としてそこに存在する。消える事のない傷を体に刻んだ男の、凄まじい過去が透けて見えて来るようだ。非常に重要で難しい役どころを、揺るぎない精神性で厳かに温かく演じあげた力量が高く評価された。
優秀新進俳優賞
篠原 篤
[受賞理由]
妻を通り魔に殺され、失意と絶望の中をさまよい続ける男を演じる。生々しい痛みが痛烈に画面から立ち上る。自己の精神もその役柄に投じた体当たりの演技に心を掴まれた。これからの活躍を期待せずにはいられない。
優秀新進俳優賞
成嶋 瞳子
[受賞理由]
日常に埋もれ、家族との絆もどこかへ置き忘れてしまった主婦の刹那が胸に迫る。日常を打開する男の出現をきっかけに変わってゆく女性を等身大の魅力で演じ上げる。表現者としての振り幅の広さを予感させる存在感に期待が集まった。
優秀新進俳優賞
池田 良
[受賞理由]
演じる高慢なエリート弁護士は、複雑な感情をうちに秘めた難しい役どころである。同性愛者の自分に向けられる偏見、想い人へ一生届かない愛、ぬぐい去れない孤独感が、飄々とした風貌の内側から滲む。不思議な存在感を放つ逸材と言える。
最優秀新人女優賞
水野 絵梨奈
[受賞理由]
社会の底辺であがきもがく少女を熱演している。諦めも哀しみも怒りも、全てを生のエネルギーに転換させる激しい役柄でもあるが、ひるむことなく体当たりで挑み、印象に残るキャラクターに創りあげた。
最優秀新人男優賞
森 優作
[受賞理由]
戦場は人を極現状態に追いやる。まだあどけない少年が生きるための本能と、理性が生み出す感情とに揺り動かされ追い込まれたその事実を思うと言葉が出ない。破綻して行く少年の生きた時間を、伝達者として演じあげたことに賞賛の辞を述べたい。
ホリゾント賞
越川 道夫 監督
*野心的かつ革新的作家性を備え、日本映画界の未来を照らすであろう作品に与える賞。[受賞理由]
これまで映画制作で映画界を底ささえして来た越川氏が、現代に一石を投じた意欲作である。匂い立つ芳しさをまとった映画である。情欲に溺れる男女の湿り気のある感情、ざらついた手触りが物語を雄弁にする。緻密に計算された構成と演出で純度の高い官能映画を生み出した、その手腕が高く評価された。
新進監督グランプリ
山崎 樹一郎 監督
[受賞理由]
山中一揆を題材に、その地で生きた人々の生の躍動を描いている。新しく自由な感性で、いかなる条件も呑み込んでしまおうという嬉々とした挑戦力が見える。娯楽性と作家性のバランスに優れた野心作であり、今後の活躍を大いに期待したい。
第30回記念 特別賞
岸 惠子
[受賞理由]
「映画のある街高崎」の原点とも言えるのが、映画『ここに泉あり』であろう。
群馬交響楽団の草創期を描いた事、そしてその映画が高崎で撮影された事が、その所以であるが、この映画が深く愛される理由の一つには、ひたむきに音楽に人生を傾けた主人公かの子の姿がある。人々の心に残る魅力的な人物像を創出した点に加え、日本映画界を牽引したお一人として敬意を表す。
第30回記念 高崎映画礎賞
小田橋 淳夫《高崎市在住映写技師》
[受賞理由]
高崎映画祭、および高崎の映画映像文化を長年にわたり陰で支えた功労者である。そのことに敬意を表す。