春がくる 春がくる
春がくるときのよろこびは
あらゆるひとのいのちを吹きならす 笛のひびきのようだ
萩原朔太郎「春の感情」より
春がくる 春がくる
春がくるときのよろこびは
あらゆるひとのいのちを吹きならす 笛のひびきのようだ
萩原朔太郎「春の感情」より
春になるとこの一節が頭をよぎります。ふらんすからくる烟草の やにのにおいのようだから始まる「春の感情」には、麗らかで美しいけれど、どこか一種独特な魔性を秘めた春の魅力が込められているように思えます。朔太郎が描く春には美しさと泥臭さが混在しますが、この一節には全てを包み込んでしまう包容力と、プラスのエネルギーに変える力が宿る気がします。春に森羅万象の生命力を感じ、加えて自らの内側から湧き出る生への渇望が、また春によって目覚めていく。春のそんな瞬間と感覚をこんな風に表現できる詩人の感性に羨望しますが、群馬の春を朔太郎はその身でこう感じたのだと思うと、同じ土地に生きる者としては感慨深いものがあります。
あらゆるひとのいのちを吹きならす笛のひびきに乗って、高崎映画祭を今年も晴れやかに楽しく、喜び勇んで開催したいと思います。
今年もこうして春を迎え、第32回を積み重ねていけることに、深く感謝しております。多くの皆様方のお力添えの賜物です。この場をお借りして心からの御礼を申し上げます。
ごく個人的な話で恐縮ですが、私自身高崎映画祭の扉を叩いてから20年目の春を迎えることになりました。自分の人生の半分近くが高崎映画祭でできていることになります。右も左も分からないまま始まった活動でしたが、地方でこんな風に映画に触れることができる、文化に携わることができるということに、学生ながら驚きました。活気に満ち溢れた日々の中で、高崎映画祭をはじめとして、多くの市民活動が、その志同じくする方達の力と、周囲の理解や支えで出来上がっていることを知りました。高い水準を目指して日々努力する諸先輩がたの背中を見て、追いかけ、ひたすらここまでやってきた気がします。
今年はまた次なる挑戦へ手を伸ばして参ります。映画とともに、まちとともに、高崎映画祭も成長を続けていきたいと思います。
第32回高崎映画祭が、皆さまにとって映画との良き出会いの場となりますように。そこから広がる様々な出会いがありますように。
今年も高崎で映画祭とともに春を楽しんでいただければ幸いです。
みなさまのお越しをお待ちしております。
高崎映画祭 プロデューサー 志尾睦子