第35回高崎映画祭開催にあたって

平素より高崎映画祭に温かいご支援ご協力をありがとうございます。このページに訪れてくださった皆さまに、心からのお礼をお伝えいたします。

高崎映画祭にとって34年目の春となった2020年は、新型コロナウイルス感染症が世界中を襲いました。その中で高崎映画祭が出した結論は、授賞式のみインターネット配信でお届けし、全プログラムの上映を中止するというものでした。翌2021年はコロナ禍中の映画祭の実施に形が見出せず、見送ることになりました。多くのことを考え、憂慮し、悩む2年間でした。

 

「映画を観たい、観せたい」という原動力が、ある日突然バツンと断ち切られてしまい失意にも似たものに苛まれました。コロナを前にして手も足も出ない。そんな気持ちです。一方で、出来ることはあるはずと立ち上がる人たちの勇姿もたくさん見てきました。SAVE the CINEMAやWeNeedCulture、ミニシアターエイドやミニシアターパークを始めとする仲間たちの行動力に励まされ、それらを応援し支援される映画ファンの熱い想いに支えられました。仲間たちの前向きな情報発信に刺激を受け、知恵を絞り工夫を凝らして開催をしている日本を始めとする世界中の映画祭に鼓舞されてきました。

 

高崎映画祭はこの先どうしていくべきなのか。模索の2年間を過ごしてきましたが、残念ながら明確な答えは出ませんでした。それでも、「映画はいつでも人の人生を豊かにしてくれる」ことだけは、確かな糧であったと思っています。

 

映画館が休業要請を受けてお休みした時も、映画やドラマの制作現場が全てストップした時も、これまで生み出されてきた数々の映画が、どれだけの人の心を支えただろうかと思うのです。映画館に通った日々の思い出や、映画祭で過ごした時間が、誰かの心を支えたのではないかと思うのです。私自身も、過去に高崎映画祭で上映されてきた数々の作品に想いを寄せる時間がありました。過去のプログラムをめくり、時には配信やDVDで見返し、日々を過ごしました。不思議とそこには、スクリーンで観た時の感覚が蘇り、スクリーンで観たいという欲求が重なりました。そしてもう一つ、その年にどんなふうにどんな作品たちがプログラムとして並べられたのかを思い返すことで、その時代が浮かび上がり、その時の自分の人生がさまざまに重なる気がしました。

 

高崎映画祭はそうやって、お届けしたい映画を、一つひとつ丁寧に、どんなプログラムで見ていただくかにこだわった映画祭です。映画を会場で観ていただくことがもちろん一番のご提案ですが、それだけではありません。ラインナップ自体に興味を持っていただき、そして楽しんでいただけるようにとの思いも込めています。いつでもどんな時でも、誰かの心に寄り添う映画がある。そんな願いを込めて、今年も選りすぐりの47作品をお届けしてまいります。

 

最後になりますが、今回の開催にあたり、これまで高崎映画祭に足を運んでくださった観客の皆さま、ゲストの皆さま、関係者の皆さま。応援し支えてくださった全ての皆さまに、心からの感謝をお伝えしたします。

 

どうぞ皆さまのおもいおもいの形で、高崎の春を映画と共に楽しんでいただけたら幸いです。

2022年春
高崎映画祭 プロデューサー 志尾睦子