邦画ベストセレクション
緒方明監督

 昨年は、高崎映画祭の期間中に桜を見る事はありませんでした。長い歴史の中でも初めての事だったのではないでしょうか。今冬は厳しい寒さでしたが、すでに春の予報では昨年より1週間は早く桜が咲くだろうと言っています。今年は今にも咲きそうなつぼみに心を躍らせながら開幕を迎え、桜吹雪の舞う中で閉幕出来るでしょうか。今からそんな事を想像してみています。
 映画を観たい、伝えたい、という映画ファン有志が作り出したこの映画祭は、たくさんのご支援ご協力のもとでこうして長い年月を積み重ねてくる事が出来ました。高崎映画祭が今年も27回目の春を迎えられることに、ただただ感謝を申し上げます。
 先日、昨年の映画祭で特別賞を授賞したアミール・ナデリ監督が『駆ける少年』の高崎の公開に駆けつけてくださいました。映画はナデリ監督ご自身の体験をもとにつくられたもので、身よりのない少年が、一人で生きぬいていく術を身につけていく日常が映し出されます。自分の出来る限りを尽くして生きる少年の姿は、生命の輝きに満ちています。製作されたのはイランイラク戦争下の1985年でした。本国イランではこの『駆ける少年』は当時大ヒットを記録し、以来国民的映画になっているそうで、今なお人々に希望を与え続けているといいます。しかし、映画完成の後ナデリ監督はアメリカに亡命しています。ご自身のこの作品をスクリーンで観客とともに観る事が出来たのは、製作から27年経った今回の日本公開なのだそうです。作品に感動する一方で、その事の重みに深く心を締め付けられました。そして、映画とともに生きる人生を今一度思い返してみるきっかけを頂いた気がしました。
 映画と共に生きる人生が豊かなものになるのは、人の心が、映画の中に息づいているからではないでしょうか。心の通った映画は、誰かの心を動かし、生きる力となり、希望となります。そんな映画たちを丁寧に、心から心へ届けたい。そんな思いで今年も高崎映画祭を開催いたします。
 心に残る映画体験を、お届け出来るようスタッフ一同頑張ってまいります。皆さまのお越しをお待ちしております。

高崎映画祭事務局総合ディレクター 志尾睦子

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