春の訪れとともに、今年も高崎映画祭は開幕を迎えます。
31回目の変わらぬ春をこうして迎えられるのも、たくさんの方々のご理解とご協力の賜物であり、足を運んでくださるお客様のおかげです。この場をお借りして心よりの感謝を申し上げます。
変わらぬ春であると同時に、新しい春にもしたいと意気込んでいます。
「ソメイヨシノは60年経つと咲くことができない」
今年上映する映画の中に、この言い伝えをモチーフにした作品があります。
かつて想いを寄せた人と一緒に植えたソメイヨシノが今もかの地で咲いているのだろうか。年老いていく中で孤独を前に、ふと桜のことを思い出したおばあちゃんは、一人でそれを確かめに行くのです。希望を持って想いを込めて植えた小さな苗木が、長い年月を経てどうなっているのか…。
毎年春に花を咲かせる桜にも寿命がある。一般的には60年と言われているソメイヨシノの寿命を、自分の生きる力に照らすおばあちゃんの想いが切実に誠実に心に伝わる映画でした。同時に自分の人生や映画祭の歩んでいく道に思いを寄せるひとときを得ることとなりました。
常にそれをそれとして目に、体に触れる時間がなくとも、それがそれとして存在しているという感覚がどれだけ人の心を安らかに豊かにするのか。
当たり前のものが当たり前でないかもしれない現実を、どれだけ意識して過ごせるのか。
時の経過は、そのものの有り様を変えていきます。自分も、人も、物事も変わっていく。変わりゆくことと変わらないこと、それぞれの大切な何かは、常にそこに存在するのだろうと思うのです。
映画の何が変わり何が変わっていないのか。それは映画を作る中で、映画を観る中で、映画を上映する中で、いつの間にか手の中に収められているのでしょう。
高崎映画祭は31年目の春を迎えました。培ってきた30年の経験を、時代の流れとともにブラッシュアップして、変わらぬ信念と新しい装いで、新たな一歩を進んでまいります。
たくさんの映画とのたくさんの素敵な出会いが皆さまにありますように。
映画を通した温かい愛が皆さまに届きますように。
今年も、高崎の地で、桜の開花とともに皆様のお越しをお待ちしております。
高崎映画祭プロデューサー 志尾睦子