舞台あいさつ・お知らせ

2020.3.22

第34回高崎映画祭 受賞者 受賞理由

最優秀作品賞|『嵐電』 鈴木卓爾監督スタッフ・キャスト一同

受賞理由

人々が持つ情熱や憂慮や苦悩が、町とともに息づき、電車に乗って誰かに届けられていく。出会いも別れも、過去も未来も、縦横無尽に飛び越えて、この物語は人の温もりをつたえようとする。風景が人を描き、人が風景を描く、その素晴らしい相関関係がこの作品には見て取れる。豊かな人間性を、自由な発想で描きこんだ丁寧な仕事だ。映画の世界観と素晴らしいチームワークが高く評価された。

最優秀監督賞|常盤司郎監督 『最初の晩餐』

受賞理由

ある一つの家族の姿を通して、絆や愛や信頼の姿を描き出していく物語だ。人生を終えた父親が最後に託した想いを、妻は子どもたちへと繋いでいく。人の想いは人の手によって確実に受け継がれていくが、それはそれぞれの小さな思いやりと信念が紡ぎ出すものに他ならないことをこの物語は教えてくれる。手間暇をかけ、愛情を込め、人のことを思って作る料理が、人の心を育むことに大いなる感動を与えられる。人が積み重ねていく年月の歩みを丁寧に描き、家族と人間の豊かな感情をすくい上げた演出手腕が高く評価された。

最優秀監督賞|真利子哲也監督 『宮本から君へ』

受賞理由

大人のはずの男が、自分の内面にとことんまで向き合うことでさらに成長を遂げていく段階を、直球で描きこんでいく力作である。一人の人間の成長譚にとどまらず、いびつな社会構造が生み出したゆがんだ家族像にも目を向け、日本社会の問題点を浮き彫りにする。その上で、一人の人間が体を張って生き抜くことの意味を公明正大に問いかけようとする。映画が解き放つエネルギーを存分に体感する映画となった。この表現力と訴求力は唯一無二のものである。

ホリゾント賞|オダギリジョー監督 『ある船頭の話』

受賞理由

文明が開かれていくことで生み出されるものもあれば、消えていくものもある。深淵なるテーマを、かつての日本の原風景に落とし込み、季節の移ろいとともに静かに物語っていく。ひとりの船頭の人生を、行きつ戻りつする渡し船に重ねることで、スピード感に埋没する歴史の襞を喚起する。独自の目線で映画の世界観を構築しようとする野心と、鋭い洞察力に裏打ちされた映画表現の奥ゆかしさが見て取れる。映画が果たせる役割に果敢に挑戦した一作である。

新進監督グランプリ|広瀬奈々子監督 『夜明け』

受賞理由

弱き者の心を知る映画である。世間からすればまだ若い青年は、自身が辿ってきた罪道を悔いている。全てを受け入れて生きるには弱すぎるその青年の姿はある意味、現代の真実なのかもしれない。青年に手を差し伸べる初老の男もまた、過去の過ちを乗り越えられずにいる一面を持っている。 人の弱さを悪とせず、そのものとして見つめて受け入れようとする。それこそが映画にできることと言わんばかりの、客観的な視線が若手映画作家の気概として映る。 奥深い人物描写と物語構成が賞賛された。

新進監督グランプリ|甲斐さやか監督 『赤い雪 Red Snow』

受賞理由

小さな町の小さな記憶から始まるこの物語は、大きなうねり声を上げて人々を呑み込み、ダイナミックなサスペンスドラマに昇華していく。人間の強欲や見たくないものに目を背けていくずるさを逃す事なく、人間ドラマとしてそれらを描きこむ。細やかに出来事を積み重ねながら、人間の五感を刺激する大胆な手法で、観る者を物語の中に引き込んでいく手腕に驚嘆する。緻密に練られた脚本と確かな演出力、構成力が高く評価された。

最優秀主演女優賞|夏帆 『ブルーアワーにぶっ飛ばす』

受賞理由

それなりにやるがいのある仕事もあり、優しい夫との穏やかな生活もある。はたから見れば合格点の生活だとしても、内なる自分がそれを良しとしない。葛藤とは少し違う、内面と外面との乖離に直面する女性・砂田は、時にその感情を荒っぽく吐き出しもするが、繊細で複雑な心情を抱えてもいる。そんな女性像を実にさらりとした風合いで演じ上げているところが見事である。一定の温度感を保つ冷静な演技力があってこその表現力である。現代女性誰もが抱える心の内を細やかに演じあげ多くの共感と支持を得た。

最優秀主演女優賞|シム・ウンギョン 『ブルーアワーにぶっ飛ばす』

受賞理由

強気な笑顔の裏に荒んだ心をのぞかせる砂田が唯一心を開き、また安心して心を寄せられる友・清浦をとても伸びやかに演じている。つかみどころのないキャラクターであると同時に、他者を包み込む余裕と懐の深さを滲ませる。その人物像が、とても魅力的に構築されていた。物語を引き締める重要な役どころを確かな演技力と表現力で演じあげ、その表現力の豊かさが高く評価された。

最優秀主演男優賞|稲垣吾郎 『半世界』

受賞理由

気がつけば父の仕事を継ぎ、地元の後輩と結婚し夫となり、自然と父親となった男・紘の人物像が、とても日常的なアイコンである事に目をみはる。日々を誠実に積み重ねた落ち着きは、ともすればいろんなことを上手くかわす器用さを身につけた事にも繋がっている。そんな男が、世の荒波に揉まれた友との再会により変化していく。若かりし頃の熱情や可能性を手繰り寄せるように自己や他者、そして息子と向き合う男の刹那が、胸に迫る。アンニュイでおぼつかない大人の成長を、ゆるやかに柔らかく体現し、多くの共感と支持を得た。

最優秀助演女優賞|斉藤由貴 『最初の晩餐』

受賞理由

長年連れ添った夫と、固い絆で結ばれた自負が宿る凜とした妻の姿は美しく、いつまでも瞼に焼きつく。妻として、母として乗り越えてきたもの、大切にしまいこんできた想いが、柔らかな物腰の奥に光る。人を信じることの尊さ、そして愛を注ぐことで生まれる新しい未来が、この母から見えてくる。揺るぎない存在感と繊細で確かな表現力が高く評価された。

最優秀助演男優賞|窪塚洋介 『最初の晩餐』

受賞理由

二つの家族がある日一つの家族になった東家の長男を演じる。自身もまた家族を持ち、父となった彼が、十数年ぶりに実家の戸を開けた時、彼が生きてきた年輪がその体の隅々から滲み出る。圧倒的な存在感と豊かな人間像に舌を巻く。くわえて、立ち位置を見据えた役作りと抑えの効いた演技力で、この物語を牽引している。鋭い洞察力と確かな表現力が高く評価された。

最優秀助演男優賞|渋川清彦 『半世界』

受賞理由

それぞれの人生を歩んできた同級生3人が再び交錯することで動き出す物語において、その中軸を支える位置付けの光彦を好演している。地元で父親の製炭所をついだ主人公・紘と同じく、光彦もまた父の代からの自動車販売店を継いでいるが、老いた家族を養いまとめる彼は、誰よりも地に足をつけて生きていることがわかる人物だ。自分の意思で道を選択し、常に人と向き合ってきたであろうその人となりの奥深さが、わずかな言葉と鋭い視線の先に見て取れる。光彦を介する事で、それぞれの心の機微がより鮮明に映し出されてもいる。緩急ある演技力と物語を底支えする役作りが高く評価された。

最優秀新進女優賞|和田光沙 『岬の兄妹』

受賞理由

身体的な障がいを持つ兄とたったふたりで生きてきた妹・真理子を演じている。自閉症で様々な分別がつかない真理子が、あることをきっかけに、性の売り物として生活資金を稼いでいく。そうしたデリケートでハードな役柄を、臆することなく大胆に演じ、生命力に満ちた女性像に仕立て上げた。肉体と精神を役柄につぎ込み体現した人物像は、圧倒的な存在感を放っている。観る者の心を捉えて放さないその表現力と求心力が高く評価された。

最優秀新進男優賞|杉田雷麟 『半世界』

受賞理由

同級生からイジメられる少年は、そこに抗いたいと願いながらまだ、成す術を知らない。その目の奥から浮かび上がる彼の苦悩が胸に迫る。そして多感な少年は自己を見つめると同時に大人達を見る目を持つようになる。その表情の変化に、ドキリとさせられる。物語の未来を担う重要な役どころを見事に演じあげたポテンシャルの高さと、強い意志を感じさせる役作りに感嘆の声が集まった。

最優秀新人女優賞|川島鈴遥 『ある船頭の話』

受賞理由

船頭の元に流れついてきた謎めいた少女の物憂げな瞳が印象深い。時代の変革を静かに描きこむ物語において、この少女の出現は屹立とした運命の象徴でもある。物語の本質を浮かび上がらせる事に成功した神秘的な存在感に観るものは魅了され、多くの賞賛と支持を得た。

最優秀新人男優賞|楽駆 『最初の晩餐』

受賞理由

母と二人で新しい家族の元へやってきた少年を演じる。複雑な心境を持ちながらも、今の時間、今の家族と向き合おうとする青年の誠実さが、その役作りから滲む。成長過程の青年のみずみずしさと、大人になろうとする意志を感じる清々しい存在感が観る者の心を打ち多くの賞賛と支持を得た。

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