最優秀作品賞
『ペコロスの母に会いに行く』 森﨑 東 監督 〈授賞式 来祭決定〉
[受賞理由] 日本映画喜劇の王道であり傑作である。登場人物たちの活き活きとした生命力の確かさを、肌で感じられる作品である。人が生まれ過ごしてきた歳月、喜びも悲しみもが、手に取るように伝わる。老いゆく母親と、息子を中心としたその家族たちの物語は、日本人がたどって来た歴史をも紐解いてゆく。人生の軌跡は記憶として残る、そのひとつの形が映画であり、それは尊き営みであることを、この作品は指し示してくれた。
最優秀監督賞
『そして父になる』 是枝 裕和 監督 〈授賞式 来祭決定〉
[受賞理由] 家族をテーマに描きながら、これは同時に個のものがたりでもある。父、母、そして子も、人はそれとして、どれだけ自然にその役割を生きられるものなのだろうか。二組の家族を通じて、人が人として人のつながりの中で生きる事のおかしみとかなしみを、思慮深く、丹念に描きだしているが、浮かび上がってくるのは一人の男の赤裸々な感情である。不完全でありながら、それこそが人間の豊かさであると伝えてくれる。是枝作品の中でも新境地を開いた意欲作である。
最優秀主演女優賞
『ペコロスの母に会いに行く』 赤木 春恵 〈授賞式 来祭決定〉
[受賞理由] 認知症を発症して久しいみつえおばあちゃんの温かくやわらかなものごしが印象深い。激動の時代を生き、さまざまな人生も引き受け、折り重ねて来た歳月がその存在から放たれている。愛情を与え、受け、家族とともに生きるみつえの姿は、観る者の心に深くいつまでも残り続けるであろう。大ベテランにしてこの演技ありと感銘を受けた。
最優秀主演男優賞
『そして父になる』 福山 雅治 〈調整中〉
[受賞理由] この物語における主人公の立ち位置は、命をつなぐことの重みと責任を人格化することなのではないか。その点において、父になる自分の内面に向き合い、その答えを探し出そうとする人物像を、身近な存在にすることに成功している。弱さやずるさを引きずりながらも、大きく深い問題に向き合おうとする主人公の姿に観る者は自分を重ねることが出来るだろう。また、立ち位置を見据え、物語を牽引している点も高く評価された。
最優秀助演女優賞
『ペコロスの母に会いに行く』 原田 貴和子 〈授賞式 来祭決定〉
[受賞理由] 若き日の主人公みつえを好演。長崎で生まれ育ち、いくつもの想いを胸に、ひたむきに、力強く生きる昭和の女性像を体現している。母として妻として家族を支え続けるみつえの、その美しさとしなやかさには目を見張るものがある。豊かな表現力と演技力が高く評価された。
最優秀助演女優賞
『そして父になる』 真木 よう子 〈授賞式 来祭決定〉
[受賞理由] 子どもの取り違えという事実に直面する母を演じているが、理屈をこえた母性が全身からにじみ出ている。あらゆる問題や事柄を全てを包み込んでしまうかのような、あたたかな存在感が圧倒的であった。魅力ある人物像を構築し演じあげた実力が高く評価された。
最優秀新進女優賞
『凶悪』 松岡 依都美 〈授賞式 来祭決定〉
[受賞理由] 物語の主軸を担う死刑囚の妻という役どころにおいて、非常に印象深い存在感を放つ。罪の重さを認識しながらも、極悪非道な男を愛し、またそんな男から愛された女の業がにじみ出る。確かな演技力がなければ表現し得ない繊細な人物描写に賞賛の声が集まった。
最優秀新進女優賞
『共喰い』 篠原 ゆき子 〈授賞式 来祭決定〉
[受賞理由] ふしだらで凶暴な男の愛人を、体当たりに演じている。男が支配力を誇示する対象としてのか弱さがある一方で、たくましくしなやかな一面をうちに秘めた女性像が実に魅惑的であった。アンニュイな存在感がひと際光を放つ。物語を引き締める重要な役柄を見事に演じ上げ高く評価された。
最優秀新人男優賞
『楽隊のうさぎ』 川崎 航星 〈授賞式 来祭決定〉
[受賞理由] 引っ込み思案の少年がふとみせる屈強な自負が、自らの内面から湧き出ている。あどけなさの残る静かな佇まいながら、その存在感は鮮烈な印象を残す。瑞々しくさわやかな感性がほとばしり、今後の役者としての成長を大いに期待させ、多くの共感と支持を得た。
最優秀新進監督グランプリ
『ももいろそらを』 小林 啓一 監督 〈授賞式 来祭決定〉
[受賞理由] 三人の女子高校生が織りなすとある日常を描く。現代社会の歪みの中に身を投じている女子高生たちの姿は、モノクロームの映像の中において、切実な実体感を伴って観る者に迫ってくる。その中にも光る、青春のほろにがさやかけがえのない時間の存在が秀逸である。社会を切り取る鋭い洞察力と、こだわりのある映像美で全体をまとめあげており、その演出手腕が高く評価された。