ドキュメンタリーには、一つの重要な役割があります。それは、時間と事実を記録する、ということ。
人間の記憶は時間とともに薄れていくなかで、記録というのは、記憶をたどったり呼び覚ましたり維持させたりする一助となります。積み重ねて行く時間の中にはおぞましい現実や深い悲しみがあり、乗り越えようとも乗り越えられないものもある。そうした中で忘れる事だけが進む力になる時もあり、その反対のときもある気がしています。
重要なのは、忘れる人がいて、忘れてならない人がいて、伝える人がいて、伝えられる人がいるということなのではないでしょうか。
今回は、東北からのたよりとして、5本のドキュメンタリーをご紹介します。
酒井耕・濱口竜介監督の東北記録映画三部作『なみのおと』『なみのこえ(新地町)(気仙沼)』『うたうひと』は、百年先への被災体験伝承という課題に向き合う作品です。撮る人の心、撮られる人の心が、映像にしみわたり、それを観る私たちとの対話が生まれます。
そして『ASAHIZA』は、福島県浜通りにある映画館・朝日座を巡るドキュメンタリー。90年前に建てられた朝日座は街の中心地で人々の生活をみつめてきました。時代が巡り、1991年に閉館。歴史を残すその建物は20年間存在し続け、2011年の震災を迎え、それを経ての今があります。そこにすむ人々は今一度、ここに何を想い、この題材にカメラを向ける監督は何をみつけ、観客の私たちは何を感じるのでしょうか。
記録と記憶と希望をめぐるまなざしに、触れる機会となる事を切に願います。